しかしながら実際を見れば年齢の長ぜる者にして年限長く、幼にして年限短きの例外を見ること多く、かつ幾年を年限とするものなりや定むることなく、何の意味も仔細もなく工場に入りて業を見習い居るもあり、一概に言い難しといえども、先ず年取れるは年限短く、幼きは長きを以って通常とすべし。しかして局外より見れば、何らの苦辛もなく段階もなく直に一人前の工女となり得るが如く思惟する者あるべしといえども、かれらの学問(もし学問というを得ば)にも糸繰・機経・管捲・機織・引込と幾段の等級あり、女学校にて一年期二年期と学科の区別のあるが如くこれを見るはあるいは適切ならざるべしといえども、かのお嬢様たちが愛とやら人情とやらを仕組んだ小説を喜び、男の噂に嗜味を集め朋輩の欠点に詮索を凝らして、さて試験際になりて少しく学科に頭脳を痛むるほか平生は訳もタワイもなく遊びて、それで立派な身の上になり得るご連中に比せば、大いに困難なるものあるが如し。

「竹になりたや桐生の竹に、繻子や緞子の綾竹に」と、常にかれらは自己の希望を謡うといえども、ああ何の時か桐生の綾竹とやなるを得べき。